ごあいさつ
麻酔科挑戦ブログ→院長ブログ
no.44 血管確保 Part2
先日、採血に難重する患者様に出会いました。
当院で一番採血が上手いと思われる看護師さんがみても、
どこをさしていいかわからないと。
やはり採血でよく失敗される(何度も何度も刺される)そうです。
難しそうなので、超音波で私がとることにしました。
驚いたことに、その方の右手の肘の近くは表在静脈というのが
みてもあまりわかりませんでした。
代わりに、動脈と静脈が割と浅い位置で伴走しており、
ここから指すのは大変危険だと思いました。
刺したはいいが動脈も刺しかねないくらいでした。
神経は離れているので神経損傷はおこらないと思いますが、
それでも採血でなるべく動脈は刺したくないところです。
左手の肘の近くは表在静脈が少し奥ですが超音波で確認し
そこから採血をさせてもらいました。
もちろん一回で成功し必要量の採血20mlほど採取出来ました。
取る方も相当困るだろうなと思いましたし、右手で今まで採血してもらっていたと言ってたので
今日刺したここに必ず血管があるからそこから採血してもらったらいいよと、本人には伝えました。
今度、職場で健康診断があって採血があるそうです。
うまくいくことを願います。
no.43 骨盤位の経腟分娩と無痛分娩
骨盤位で経腟分娩は当院でも滅多に行いませんが、
今回 無痛分娩と併用しながら経腟分娩を成功に至った
妊婦様に対して感想を聞いてみました。
===無痛分娩を経験して===
無痛分娩をしようと決断した理由としては、逆子の経腟分娩を希望していたからです。
近年、個人医院で逆子の経腟分娩をしている産院が少ないと聞く中で、
井出哲弥先生の元でなら可能だということから、経腟分娩でトライしてみようと思いました。
先生と話し合いを重ねる中で、もし分娩中に危険となり帝王切開に切り替えるとしても
無痛にしていると素早く切り替えることができること、
そして逆子のため分娩前に腟を広げる前処置があることを教えて頂き
より安全な方法かつ、少しでも冷静に落ち着いてお産に挑めた方がいいなと思い、
無痛分娩を決めました。
3回目のお産であることや、自分自身痛みに強いという自覚もあり
逆子になるまでは無痛分娩にする選択肢すら私にはありませんでしたが、
いざ経験してみて、今回は本当に無痛分娩にして良かったです。
前処置の痛みの不安からの開放、陣痛が来ているはずなのに張りすらそんなに感じないし、
陣痛中の内診すらも全く痛みない。
クライマックスの時に少し痛みは感じたものの全然耐えれる程度でした。
分娩後に少し気分が悪くなり嘔吐が一回ありましたが、
すぐに吐き気止めを注射してもらいすぐに良くなりました。
回復室では、麻酔をした部分の違和感や感覚が戻って来るムズムズ感?と
目がチカチカする(眩しい感じ)が少しありました。
それも数時間でよくなり、自力でトイレに行けるようになる頃には無くなっていました。
出産の翌日は少しだけ腰部に痛みがありました。
麻酔の副作用があったものの、あんなに人生で一番痛いと言われる痛みから
開放されるというのは本当にありがたい限りでしたし、無痛にして良かったなと思っています。
===逆子の経腟分娩を経験して===
井出先生の元で2回、妊婦健診や自然分娩を経験していることから
正直、逆子の経腟分娩に対して不安はほとんどなかったです。
リスクや色んな選択肢、可能性を話してもらい、
納得して経腟分娩を選択することが出来ました。
ただ、無痛の麻酔無しでこのお産が出来たかと聞かれると
絶対無理だったなというのが正直な気持ちです。
陣痛の痛みにプラスして頚管を広げたり、
腟を広げる処置の痛みも加わると思うと絶対耐えれなかったなと、、、
でもやっぱり産後の回復も早いし私はこの選択をして良かったなと思います。
<私からの補足>
感想ありがとうございます。そして無事な出産おめでとうございます。
私のもとでなら可能とお書き頂きありがとうございます。
骨盤位分娩の分娩管理に関しては父である井出哲正院長から教えて頂いたもので、
いわゆる伝統技術の継承というやつです。
私は、それに無痛を加えたに過ぎません。
Hannah M(統計学者と池田智昭先生はいってたような...記憶がありますが)らによる
超一流雑誌Lancetに2000年 骨盤位分娩するより
帝王切開の方が予後が良いと載ってから、世の中では一気に骨盤位→帝王切開と流れました。
そして以降、骨盤位分娩の継承者は激減しました。
私はこの、論文を若かりし時、何度も何度も読み直し
研究デザインの欠点などを思い賛成はしていませんでした(生意気だと思いますが...)
以降、産科ガイドライン2023にも単胎骨盤位の分娩様式についての
議論は継続しているようです。
ではなぜ、今回 外回転術を勧めなかったのかというと、
男児であること、殿部がすっぽり骨盤にはまって ずっと単殿位だったこと、
臍帯の位置は常に頭側にあって、まったく首にも何処にも絡まってなかったこと。
そしてなにより羊水が正常ギリギリ範囲の少なさであったことと
経産婦さんであったことです。
外回転術を行えば、問題なく回ったかもしれませんが、
経腟分娩の方が確かに成功率は高いと内診所見からも判断できたからです。
無痛なしの骨盤位分娩と少し感じは違いましたが、
今回の胎児にとっては臍帯血のPHはもちろん、帝王切開で娩出するより
遥かに負担が少なく娩出できたという印象です。
もちろん、いつ急変が起きるかわからないので待機の医師にいてもらうこと、
帝王切開の準備をした状態で分娩にTrialする。そういう備えのほうが大事だと思っております。
満足してご出産していただければとても、我々も幸せです。
これからも一人ひとりの患者様に満足してご出産して頂けるように
私が昔 誓った医療が、最近少しずつ提供できてとても良かったです。
当院はより患者様に満足して頂けるように、
少しずつではありますが変化を続けております。
やはりDPEはしておいた方が、より痛くなかったろうな、、、
no.42 血圧の低下に対して
↑麻酔のバイブル書 Miller’s Basics of Anesthesia eight editionより抜粋
我々、麻酔科は血圧が下がったときは、
瞬時に何が原因で下がっているのか。
上記にあるAlgorithmを頭に思い浮かべます。
細かく言うと、少し違うところもありますが、大体は血圧に対して
我々麻酔科が考えることはおそらく同じです。
無痛分娩で血圧低下の頻度が低血圧 17~37%(17%)(照井克生. 野口翔平. 硬膜外無痛分娩.南山堂.改訂4版2022 より引用、一部改変)と記載されていますが、
我々はいまのところ計画分娩ということもあり、0%です。
ただし、血圧が万が一下がったときにはどこに問題があるのか、
上記の表を思い浮かべて対応していくようにスタッフで共有できたらいいなと思っています。
妊婦様に対して中途半端な対応でいくと、Besold-Jarich反射(後に解説します)がおきて、
心停止する可能性がありますのでとても注意が必要です。
産婦人科で自家麻酔かけられている先生方は、ご存知だと思います。
早速、周産期センターご勤務で日本周産期・新生児医学会認定
周産期(母体・胎児)専門医をもっている後輩ですが
ベテランの先生に聞いたら、知らないと言っていました(^_^;)
因みにこのBesold-Jarich反射は麻酔科専門医試験で、しばしば出る問題です...
no.41 <外回転術:私からの補足> Part2
なんとも信じられなく、痛ましい出来事です。
私や部長がしていたのは、外回転術では決してなかったのですが
誤解されても困るので止めることにしました。
私の場合は、実際の外回転術の際には
脊髄くも膜下麻酔と胸部硬膜外麻酔というのを併用します。
これはいつでも、万が一心拍が回復しないときには
帝王切開できる体制で行うということです。
なおかつ、お腹も硬膜外麻酔単独に比べて
脊髄くも膜下麻酔をかけると腹直筋などが軟らかい。
そのため、無麻酔はおろか、硬膜外単独よりも
断然有利な状況で外回転術を行えます。
万が一、心拍が回復しないときには、
麻酔レベルを硬膜外麻酔からすぐ上げることができるので
数分で娩出可能です。
(もちろん帝王切開の準備をしておいり、医師にも待機してもらって行っております)
なので安心して受けていただけます。
詳細は<国立成育医療研究センター 骨盤位外来>というのを
参考にしていただければ、だいたい内容は同じかと思います。
またこれらは、私が麻酔科標榜医で自信をもって
麻酔を提供できるというのが大きいと思っております。
大きく違う点としては原則
37週以降に行うこと(35-36wで出生されても当院でも対応できるのですが、、
統計的に優位な差がないのであれば37w以降の方がいいと自分は考えます)
回転しない場合は、そのまま緊急帝王切開術を受けて頂くことです。
あとは、外回転術後は胎児心拍連続モニタリングというのを行い
胎盤早期剥離を疑う所見がないか、
翌日までつけて、診察を受けて頂き
超音波で胎盤肥厚の所見がないか
確認してから帰っていただいております。
現在は、当院出産予定で骨盤位で経腟分娩を
強く希望されている妊婦様に関してのみ
対応させて頂いております。
胎盤の位置や羊水の量、
臍帯の位置によってはお断りさせて頂く場合がございます。
no.40 <外回転術:私からの補足> Part1
つい最近までは、正直にいうと32-34週?くらいの
横位(横向き)に近い骨盤位の方に対して、
子宮収縮抑制剤を使ったり使わなかったりして
軽く頭を誘導していました。
これは、私が以前勤務していた部長先生も
しているといってました。
ただし
2024年7月11日、逆子をなおすための外回転術を受け
お子さんに重度の障害が残った事故で、ご家族が産婦人科医に対し
刑事告訴を決めたというニュースが報じられました。
この事故では、産婦人科医が外回転術後に
赤ちゃんの心拍に異常があったにもかかわらず、
二度目の外回転術を実施するという
信じられないことが行われていました。
さらに施術後、胎児心拍数陣痛図(CTG)上には、
赤ちゃんの低酸素状態を疑う所見が何度も認められていたのに
2日間も放置し、別の医師が2日後に緊急帝王切開を実施。
産まれた赤ちゃんは、脳に重大なダメージを受けて
四肢まひやてんかんなどの重度の後遺症が残りました。
という報道がありました。